1.装置の問題点

前回発表した装置[1]は、低エネルギー逆光電子分光法(Low-Energy Inverse Photoemission Spectroscopy; LEIPS)の原理を実証するためのものであった。装置開発がしやすいように、電子源や光検出器の取り付けに自由度が大きくなるように設計した。そのために、実際のスペクトル測定にはとても手間がかかった。

まず、真空槽が一つだけでロードロックやサンプル移送の設備がないため、サンプル交換のたびに大きなフランジ(CF305)を開け閉めし、ベーキングする必要がある。光検出器のアライメントも毎回やり直さなければならない。装置全体を暗室の中に入れたため、フィルター交換やサンプル交換のたびにホトマルのスイッチを切って暗室を開け、作業後に暗室をもう一度閉じて、光の漏れがないことを確認する必要がある。こんなわけで、一週間に3サンプルを測るのがやっとであった。しかも毎回フランジを開閉めするため、1枚数万円のCF305のガスケットを消費し、電子銃のカソードの劣化も早いというように消耗品代もかさむ。さらに、サンプルを透過した光を検出することから、透明基板しか使えず、サンプルの光吸収によって、信号強度が低下していた。

1.装置の問題点

図1.1 前回製作した装置の問題点[1]


そこで、これらの問題点を踏まえて、以下のような改良を施した2号機を製作することにした。
(1)サンプルを簡単に導入できるように、ロードロックをつける。
(2)真空槽内で真空蒸着して測定(in situ測定)できるようにする。
(3)光検出器を電子源と同じ側に取り付けることで、不透明な基板が使用できるようにする。
(4)ついでに集光用のレンズをできるだけ試料に近づけることで、集光効率を上げる。
(5)暗室を使わずに遮光する。
その他にも、不必要な機能をなくし、必要な機能を追加して、より使いやすいように改良を加えた。


[1] H. Yoshida, Chemical Physics Letters 539–540, 180–185 (2012).