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3.改良した装置の性能

3.1 分解能

分解能は、銀薄膜のフェルミ端の広がりから見積もった。スペクトル測定には、中心波長254 nmのフィルター(分解能0.15 eV)を用いた。このフィルターは、前回使ったもの(0.25 eV)よりも分解能が向上している。

前回同様に[1]、スペクトルを微分しガウス関数をフィッティングして、装置分解能を見積った。この結果、半値幅0.27 eVとなった。実測した電子線のエネルギー広がりが0.23 eVなので、電子線のエネルギー広がりとバンドパスフィルターの分解能の畳み込み(convolution)とよく一致している。

スペクトルの微分を数値計算すると、ノイズの影響を受けやすい。スペクトルのわずかな変化量が微分だからである。そこで、スペクトルを微分する代わりに、フィッティングする関数を積分しても同じはずである。ガウス関数の積分は、誤差関数(error function)。これを基の微分する前のスペクトルにフィッティングしたのが図3.1の上のパネルである。数学的には等価であるが、ノイズに対しては強い。つまり、短い積算時間で測定したSN比の悪いスペクトルでも解析できるので、実用的にはとても便利である。

3.改良した装置の性能

図3.1 銀薄膜のLEIPSスペクトル

3.2 スペクトル強度

亜鉛フタロシアニン(ZnPc)のスペクトルを測定して、前の装置と信号強度を比較してみた。前回は銅フタロシアニン(CuPc)だったが、フタロシアニンのIPESスペクトルは中心金属にあまりよらないことがわかっているので[2]、強度の比較ができる。

図3.2がZnPcのスペクトルである。信号強度は、約10倍に増えている。これは、レンズを近づけた効果(集光効率が4倍向上)、試料や基板による光の吸収がないこと(約2倍)によるものと考えられる。

3.改良した装置の性能

図3.2 亜鉛フタロシアニンZnPcのLEIPSスペクトル

[1] H. Yoshida, Chem. Phys. Lett. 539-540, 180-185 (2012).
[2] H. Yoshida, K. Tsutsumi, N. Sato, J. Elect. Spectrosc. Relat. Phenom. 121, 83-91 (2001).