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1.これまでの分光器を使った真空紫外域の逆光電子分光

逆光電子分光法では、電子を試料に照射し、この電子が空準位に緩和するときの発光を検出する。この逆光電子過程の断面積は、極めて低い。そのため、微弱光を検出する必要がある。しかも、光のエネルギーを分析しなければならないから、実験はとても難しかった。高エネルギーで感度を持つガイガー・ミュラー管と、低エネルギーの光しか通さないCaF2などのフィルターを組み合わせて、約10 eV(130 nm)の光のみを検出するDoseのバンドパス検出器[1]は、感度が高く、検出面の面積が大きい画期的な光検出器だったのである。

光の分析には、しばしば分光器が使われる。分光器は、検出波長や分解能が簡単に変えられて、感度特性も優れている。一方で、バンドパス検出器に比べて光のロスが多いので、逆光電子分光のように光の強度が極めて弱い場合には測定が難しい。しかし、逆光電子分光に分光器を使う試みはあった[2]。分光器を使う場合でも、特に真空紫外光の分光では、いくつかの困難がある。まず、酸素や窒素による光の吸収があるため、回折格子や光検出器を真空中に設置しなければならない。また、鏡の反射率が低い(アルミ蒸着ミラーの反射率は170 nm以下で急激に低下する[3])ので、鏡を使わなくても分光器を構成できるように凹面回折格子を使う。凹面回折格子も、アルミ蒸着なので真空紫外域での反射率は低い(4%–15%)。

このようなことから、真空紫外域の逆光電子分光に使われている装置は、図1のようなものである。電子線を絞って光の放出領域を限定することで、入射スリットを除いている。光の検出効率を上げるため、MCPを使った2次元検出器が使われる。装置の開発に時間がかかること、真空中に光学素子が入っているから調整が難しいこと、そして光の捕集・検出効率が低いことなどの難しさがある。

1.これまでの分光器を使った真空紫外域の逆光電子分光

図1:回折格子を使った真空紫外域の逆光電子分光装置の概略図